今日の法話2025/09/10
「生きる道しるべ」
少し身近なことをお話ししながら、仏さまのおしえについてご一緒にあじわいたいと思います。
先日、あるご家庭で施主のお父さんの法事を終えたあと、お茶をいただいていたときのことです。
ご主人がしみじみとこう仰いました。
「この頃は昔のことばっかり思い出すんですわ。若いときは、おやじの言葉がうるさくて聞く気もせんかったけど、今になって『あぁ、あの言葉はほんまやったな』と思うんです」と。
その言葉を聞いて、私も母の口癖を思い出しました。
「人に言われただけのことはすぐ忘れるけど、自分で苦労して覚えたことは身につくのですよ」と。
若いころは「はいはい」と受け流していましたが、今になると本当にその通りやなぁと感じることが多くなりました。
考えてみれば、仏さまのおしえも同じです。
お釈迦さまが本を残されたわけではなく、亡くなられたあとに弟子たちが「こう仰っていたなぁ」と語り合い、それが伝わっていまに至っているのです。
私たちも日々の暮らしに追われる中で、親や祖父母、先立った人のことを忘れがちです。
けれど、ふとしたときに思い出すことがあります。
「そういえば、うちのばあちゃんがあんなこと言ってたな」
「親父がよう口にしとったわ」
その一言が、今の自分を支えてくれていると気づくときがあるんですね。
仏さまのおしえも同じで、全部を覚えておかなくてもいいんです。
困ったときや迷ったときに「そういえば、こんな話を聞いたな」と思い出せたら、それが縁となり、道しるべになるんです。
そして今度は、私たち自身が次の世代に伝えていく番です。
難しい説教でなくてもいい。
「おじいちゃんがよくこう言うとった」
「お母さんがこんなこと話してた」
そんな何気ない言葉が、子や孫の心に残り、生きる支えになるんです。
どうか皆さんも、ご先祖や親からいただいた言葉、仏さまのおしえをひとつでも心にとどめて、また子や孫へと伝えていただければと思います。