今日の法話2006/12/20
「譬喩経(ひゆきょう)」というお経の中の面白いお話
みなさん こんにちは。
本日は、「譬喩経(ひゆきょう)」というお経の中の面白いお話をいたしましょう。
昔、インドに長者がいました。その人は、インドで一番美しい女性と結婚しました。
二人は、とても仲良く暮らしていました。そんなある日、主人が奥さんに、蔵の中に行って、壺の中のぶどう酒を汲んできてほしいとたのみました。奥さんは、言いつけられるままに蔵の中に入って行きました。そして、ぶどう酒を汲もうと、壺の中を見て驚きました。その壺の中に、とても美しい女性が入っているのです。
その女性というのは、実は自分の影だったのですが、奥さんは、そのことを知らなかったのです。奥さんは、大変腹を立て、こんな女を壺の中に隠しておいて、自分は二重結婚をさせられたのだと、主人に噛み付いたり、ひっかいたり、さんざん泣きわめきました。しかし、主人は、身に覚えのないことで、奥さんが、何を怒っているのか見当もつきません。
そんなはずはない‥と、今度は、主人が蔵の中に入って行き、壺の中をのぞいて驚きました。壺の中には、美しい女性どころか、立派な男が入っているのです。二人は、大喧嘩になりました。
そこへ一人の道士が通りかかりました。若い二人の大喧嘩を見捨ててもおけないと、仲裁に入りました。「壺の中に、何か仕掛けがあったのかもしれない。私が、正体を見てあげよう。」と言って、壺の中をのぞき込みました。しかし、今度は、道士が、カンカンに怒り出しました。壺の中には、きちんと襟を正した道士がいるのです。そこで、こんな道士を先に呼んでおきながら、自分に恥をかかせるために、芝居をしていたのだと、ぷんぷん怒って帰っていきました。
その後に、いつも、この家へ出入りしている尼さんが、知らん顔もしておれないと、「まあまあ、それは、壺の中に魔法使いが入っていて、あなた達をからかっているのかもしれない。私が、正体を見破ってあげよう。」と、蔵の中に入っていったのです。しかし、この尼さんも、結局、ぷんぷん怒って帰って行きました。
その後、お釈迦様のお弟子が、蔵の中に入っていくのです。仏弟子は、壺の中をのぞいて見るなり、にっこり笑みを浮かべて、若い二人の夫婦に言いました。
「あなたたちは、皆、自分の影を見て、腹を立てていたのです。別に実体があるわけではない。今、その証拠を見せて差し上げます。」と、そこにあった石を拾って、壺めがけて投げつけました。壺が割れて、中のぶどう酒は流れ、後には何も残りませんでした。自分たちの見ていたものは、すべて、「空」であることを知って、今更のように自らを恥じたというお話です。
「きれいだ。」「きたない。」、「好きだ。」「嫌いだ。」と、私たちは、見るもの接するものを、差別します。しかし、「きれいだ。」「きたない。」、「好きだ。」「嫌いだ。」は、私の心の中に存在するのであって、そのものの実体に、「きれいだ。」「きたない。」、「好きだ。」「嫌いだ。」は存在しないのです。
平成18年12月19日